本記事は本サイト内、「Curation」にある「スポーツパートナーシップの力:ブランドにもたらす効果」に対する考察記事です。
スポーツビジネスの特異性
どの業界にも特異性が存在するように、スポーツにもユニークな特異性が存在し、筆者はそれらを「共有」「感情移入」、そして「一体化」の3つだと考えています。もちろん、スポーツに似た業界も多数あり、例えば飲食では、一緒においしいものを食べることで幸福感や時間を共有することができます。しかし、「感情移入」や「一体化」は、スポーツならではのものではないでしょうか。
スポーツの試合を消費したファンが「僕たち・私たちは勝利した」と一体化した表現をすることがあったり、「消費者」ではなく「ファン」という点も特異な点だと言えます。彼ら・彼女らはチームの選手ではないのに、自分もチームの一員のように一体化できるのです。あるいは、ゴールが決まった瞬間に知り合いではない隣席の人とハイタッチをしたり、思わず抱き合ってしまうことさえあるのもスポーツの特異性です。
「感情移入」で言えば、サッカーのPK戦を直視することができず、テレビのスイッチを切ってしまうような例を聞いたことがあるでしょう。私自身も子どものころ、プロ野球の9回の守備を抑え切るかどうかの緊迫した場面で、自分がテレビを切ることで守り切れるかもしれないなどと考えて画面を消したことがあります。
また、試合という商品を消費するときに、ファンたちは選手のプレーに合わせて歓声をあげたり拍手をしたりしますし、チームに加勢するために声援に力が入ることもあります。一方で、スーパーで日用品を購入する際に声を張り上げてレジで支払いをする人はいませんし、水を飲むときに飛び跳ねることも普通はありません。このように、それぞれの業界に特異性があるのと同様に、スポーツにも特有の特異性があるのです。
スポーツを活用する理由
ブランドや商品をマーケティングする方法は、世の中に数え切れないほど存在します。スポーツ業界において限られた予算の中で費用対効果の高いマーケティングを行うためには、どうしてスポーツを活用するべきなのか?というポイントを理解しておく必要があり、そのポイントを押さえておくことで、より効果的な施策の実施が可能となります。
分かりやすい例として、人種のるつぼと言われる移民国家の米国では、それぞれが異なるコミュニティで生活し、異なる媒体から情報を得ていて、英語が「セカンドランゲージ」と言われるように普段は異なる母国語を話す人も数多く存在します。
「米国人」の定義も多種多様で、日系米国人もいればメキシコ系米国人などに細分化されていきますし、テレビのチャンネルや新聞社の数でも、LAタイムズやボストン・グローブなどのように都市ごとに多数存在します。このような社会背景においては、広範囲なマーケティングは非常に難易度が高くなります。
その中でも広範囲に伝わる情報は、①大統領選挙のニュース、②戦争や紛争のニュース、そして、③スポーツニュースだと言われています。企業がマーケティング活動を検討する際に①と②は避けたいはずで、だからこそスポーツを活用して多くの人に情報を届けようと考える理由になります。
見知らぬ人との会話において、「昨日のワールドシリーズ、見た?」と「昨日のポーランド系番組の○○、見た?」とでは、属するコミュニティに関係なく、ワールドシリーズを見たと答える人の方が多いでしょう。これはスポーツの特異性を説明するための例ですので、何も米国に限った話ではありません。日本や他の国においても、スポーツをどう活用すると良いのかという解は、数多く存在します。
スポーツビジネスは特別なものではない
上記の例は、スポーツが特別なものであると言いたいのではなく、はたまたスポーツをマーケティングやビジネスに使うべきだと言いわけでもありません。マーケティングやビジネス活動においては、各業界の特異性が自社にとって必要なものなのかを考え、必要ならば、どのように活用するのが良いかを議論したりアイデアを出したりしなければ、効果的な戦略立案には結びつかないということなのです。
今回紹介したキューレーションの記事を読み、そして本サイトの目的を省みたとき、なぜスポーツをビジネスに活用する必要があるのかまで、考えることが大切ではないかと感じました。