• 所長観戦体験記

2024.06.15

会場を一体化させる選手のパフォーマンス【所長観戦体験記 #002】

様々な競技をスタジアム、アリーナで観戦していると、選手のパフォーマンスの違いも楽しめるようになってきた。ひいきのチームの試合を観戦するときは当事者意識、そうではない場合は観客の反応を見るのが楽しい。

筆者は強制力を感じるような応援や応援練習は好みではない。一人ひとりが感じたままに感情を表現し、それが偶然広まったときの、あの何とも言えない鳥肌が立つような雰囲気が好きだ。それを引き出すのが選手たちのパフォーマンスであることは間違いないだろう。

ということで、所長観戦体験記の第2回は、そんな選手たちのパフォーマンスについて取り上げてみたい。

パフォーマンスのタイプは大きく分けて6パターン

筆者の観戦体験を元にすると、得点をあげたり、ファインプレーをしたり、ゴールを防いだりといった、何らかの活躍をした後に選手たちが見せるパフォーマンスは、大きく6パターンに分類できそうである。

① 一人静かに
② コート内・ベンチに向かって
③ 観客に煽られ、その方向に向かって
④ 観客席の特定の人に向かって
⑤ 観客席の特定のエリアに向かって
⑥ 会場全体・不特定多数に向かって

それぞれについて、観客の感じ方も含めて簡単に解説する。

① 一人静かに:
ジワジワ効いてくる。選手本人の思いや背景に共感したりすると鳥肌もの。一方で控えめで小さなガッツポーズを見せられると、「一人で噛みしめないで」と思うことも多い。その思いを共感したい。かつて清原和博選手が巨人時代、ケガによる不振からの復活でホームラン打った後の一塁手前で見せた、溜めてから突き上げるようなガッツポーズは今でも記憶に残る印象的なパフォーマンスだった。

② コート内・ベンチに向かって:
チームの仲がいいんだなと思ったり、素の喜ぶ姿が見られるお得感があると思ったりすると同時に、一観客としては置いてきぼり感が生まれることもある。その喜びを一緒に分かち合いたいと思う。

③ 観客に煽られ、その方向に向かって:
何らかの関係性があるグループに向けてのパフォーマンスは、何かのお約束なのかなと感じる。インカレの雰囲気に似ているかもしれない。内輪のノリのようだが、対象がチーム関係者の場合とコアすぎるファンの場合とでは印象も違ってくる。後者の場合は選手にやや同情する気持ちも芽生える

④ 観客席の特定の人に向かって:
「お母さん、お父さん、おれ/わたし やったよ!」という言葉が聞こえてくる感じで、その先に誰がいるんだろうと思わず観客席をのぞき込みそうになる。中継がある場合は映像に映し出されることも。これが繰り返されると、「こっちも向いて」と心の声が漏れる。

⑤ 観客席の特定のエリアに向かって:
③と少し似ているが、こちらは観客席からの煽りによるものではない。ホームチームの応援団(席)に向かってのパフォーマンス。応援してくれているファンに対し、感謝と「もっと!」のアピールになる。対象の席にいると「よーし!次も!」と気持ちが盛り上がる一方、対象の席にいないと「こっちも応援してるんだよ」と言いたくなる。ラグビーのように両チームを応援する人が入り交じっている競技だと、どこにアピールするか迷いそう。

⑥ 会場全体・不特定多数に向かって:
会場全体に一気に一体感が生まれ、うねりが起きる。メイン、バック、ゴール裏とか、場面ごとに、それぞれ全体に向かってやってくれるとうれしい。アリーナの場合は選手と目が合ったと思い込める喜びも感じられる。

自然と生まれる一体感

選手や対戦相手、試合の流れによってそのパフォーマンスは様々だが、⑥が一番盛り上がるのは間違いない。試合終盤で逆転に向けた流れの中でこういううねりが発生すると、選手にも勢いが出て一気に勝利に向かうというようなこともある。誰かの先導によって作られた一体感と選手のパフォーマンスで生まれる一体感の質が異なるのは、会場で観戦したことがある人なら感じていることだろう。

一方で、①のようなパフォーマンスには観客からの強い共感を引き出す魅力がある。その選手をよく知るファンや関係者が見ると、グッと心をつかまれるはず。紹介した6種のパフォーマンスの中で唯一、自然と選手本人の中から現れるパフォーマンスだからであろう。

こういったパフォーマンスは観客数によっても変わってくる。関係者や企業応援団以外の観客が少ない場合は③④⑤が多くなる傾向があるが、満員の会場で③④⑤が繰り返されるような光景はあまり見たくないものだ。

サッカーのゴール後のパフォーマンスのように、準備されて観客を楽しませてくれるものもあるが、プレー中のパフォーマンスは時間的な余裕がないことが多いため、試合に集中する選手たちはそんなことを考える余裕はないかもしれない。しかし、選手一人ひとりのパフォーマンスが観客をより沸かすことにつながるため、少しでも意識してもらえると観客としてはうれしいものだ。

番外編:これからの可能性を感じるパフォーマンス

会場でのパフォーマンスは来場者に向けたものではあるが、同時に中継カメラに向かって行われるパフォーマンスもある。プレーの最中でもあるので試合中はワンポーズを取るくらいだが、入場時やハーフタイム、試合終了後の退場時など、カメラに向かってサービスをしてくれる選手も多い。

野球であればホームランを打った後のベンチ前、バスケットボールであればコートに入場するときなど緊張感がある中でのちょっとしたサービスがうれしい。配信される試合コンテンツの価値向上の余白が大きい日本においては、中継カメラを通じた試合以外の会場内コンテンツの充実は、これから期待できる分野の一つではないだろうか。

この記事を書いた人

Seiji MORIMATSU

森松 誠二 Seiji MORIMATSU

所長

コンサルティング会社数社を経て現職。一貫してCRMとCXプロジェクトを担当。デロイト トーマツ コンサルティングのスポーツビジネスグループにて、スポーツの新たな価値創造やパートナーアクティベーション、スポーツビジネスコミュニティの活動企画、実施に従事する。

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