近年Jリーグがシーズン制を移行する動きが話題となり、プロスポーツリーグの形式とそのビジネスモデルに対する関心が一層高まっています。プロスポーツリーグは、選手やチームだけでなく、スポンサー、ファン、地域社会に至るまで広範な影響を及ぼす重要な存在で、リーグの形式と制度設計はその発展と成功において重要な役割を果たします。今回は、オープンリーグとクローズドリーグの特徴とビジネスモデルについて中立的な立場から考察していきます。
予算策定を難しくする要因
プロスポーツリーグは、所属チームが競技を通じて互いに競い合いながらも、ビジネスパートナーとして協力し、リーグ全体の拡大を図るという独特の関係を持っています。これは、ビジネスゆえにスポーツ特有の勝敗などに代表されるボラタリティ(変動性)へのアプローチと考え方においても重要です。戦力均衡、選手年俸の高騰、地域格差などの課題に対処しつつ、全体利益を考慮したビジネス戦略を策定するために、リーグの形式は重要な要素となります。
オープンリーグは、チームの成績に基づいて昇格や降格を行うリーグ形式で、シーズンごとの成績によってチームの所属リーグが変動します。この形式は主に北米以外のプロスポーツリーグで採用されています。オープンリーグの特徴として、成績上位のチームは上位リーグへの昇格が可能であり、下位チームは下部リーグへ降格する点が挙げられます。昇格や降格が懸かっているため、全試合が高い緊張感と興奮を生み出します。しかし、成績によって所属リーグが変動するため、チームの予算計画が不安定になる可能性もあります。
具体的には、勝ちたいという強いプレッシャーから、チームは予算を膨らませて良い選手を獲得しようとする傾向があります。しかし、高額な選手を獲得したとしても、必ずしも成績が向上するとは限りません。仮に思ったような成績が得られなかった場合、昇格が果たせず、または降格してしまい、支出と収入のバランスが崩れてしまうリスクがあるのです。これがチームの予算策定を難しくしている要因です。
それぞれのリーグ形式の背景
一方で、クローズドリーグはチームがリーグ内で固定され、成績に関わらず昇格や降格がない形式です。リーグのメンバーは安定しており、新規参入や脱退が管理されます。降格のリスクがないためチームは長期的なビジネス計画を立てやすく、経営基盤を固めることができます。新しいチームがリーグに参入するには特定のビジネス条件を満たす必要があり、財政面での安定性が求められますが、投資対象としてある程度の担保がされているとも言えます。
ただし、昇格や降格がないため、試合の勝敗に対する熱量がオープンリーグに比べて低くなる可能性は否めません。これを補完するために、プレーオフシステムなどが導入されることがありますが、そうだとしてもオープンリーグ独特のギリギリの戦いを観る機会は減少すると言わざるを得ません。
オープンリーグが主流の欧州では、スポーツは地域の人々が集まる場として始まりました。初期は会費制で運営されていましたが、次第に地域や街への誇りを象徴する存在として発展しました。このため、クラブ同士の試合はしばしば「代理戦争」と称されることもあります。例えば、スペインのサッカークラブの多くはソシオ制度を採用しており、クラブの所有者は地域の会員です。
欧州から北米にスポーツが渡ると、異なる社会背景のため、地域密着型の運営から興行主によるビジネスモデルへと変化しました。北米では、チケットを購入して試合を観戦するファンが登場し、チームは興行収益を重視する形で発展していきました。例えば、北米のプロスポーツではフランチャイズ制を採用しており、チームの移転もビジネスの一環として行われます。各チームはビジネスとしてどう収益を上げるかを重視するようになり、チームの移転はより収益性の高い環境を求めるための戦略的な決定が求められます。
そのまま取り入れる必要はない
リーグ形式はオープンかクローズドの基本形はあるものの、この二択に限らず、ハイブリッド形式も存在します。新しいリーグの初期段階では経営基盤安定のためにクローズドリーグを推奨し、リーグの安定と成長を見計らってオープンリーグに移行する可能性も考えられます。例えば、USL(United Soccer League) Super Leagueは将来的にクローズドからオープンリーグへの移行を予定しています。さらに、NWSL(National Women’s Soccer League)やMLS(Major League Soccer)のように、シングルエンティティシステムというクローズドリーグの中でも極端な形式を採用しているリーグもあり、チーム間の競争を維持しつつ経営の安定性を図る工夫が見られます。
リーグの基本形を補完するために、ドラフト制度やサラリーキャップ、リーグ分配金などのルールも存在します。これらのルールは、上述したスポーツのボラタリティをどうコントロールし、ビジネス拡大につなげるかを考える上で重要です。例えば、ドラフト制度は新しい才能を公平に分配することで、リーグ全体の競争力を保ち、各チームの戦力均衡を図っています。サラリーキャップ制度は選手の年俸を制限することで、財政面での安定性を確保し、チーム間の格差を縮小する役割を果たします。
このようにプロスポーツリーグの形式には、オープンリーグとクローズドリーグがあり、それぞれに独自の利点と課題があります。オープンリーグは競争の激化と予算の不確定性を伴いますが、クローズドリーグは経営の安定性を提供しながらも競争の熱量に欠ける可能性があります。ハイブリッド形式も存在し、それぞれの利点を組み合わせて最適なリーグ運営を模索することが可能です。最終的に、どの形式が適しているかは、リーグのビジョンやビジネスモデルに大きく依存します。各リーグがどのような方向性を目指し、どのようなビジネス戦略を採用するかによって、最適な形式は異なるでしょう。ビジネスの成功とスポーツの発展を両立させるために、リーグの形式選びはカスタマイズされていきます。
日本は独自の歴史と文化、そして地域性が豊かな国であり、欧州のようにオープンリーグの方が適しているかもしれません。ただし、海外のリーグ形式をそのまま採用する必要はなく、オープンリーグとクローズドリーグの双方から適している部分を取り入れ、ハイブリッド型のリーグを形成することが有益です。そこに経営拡大のためのルールなどを部分的に導入し、自分たちのリーグ方針に則したオリジナルの施策を作り上げることで、リーグをどんどん進化させていくことができるのではないかと、リーグビジネスにも大きな期待をしています。