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2024.02.09

情熱だけに頼らず、冷静なビジネスを

本記事は本サイト内、「Curation」にある「2023年、スポーツのスポンサーシップとマーケティングについて学んだ10のこと」に対する考察記事である。

 

スポーツビジネスの土台は、情熱の共有

何度となく使われてきた表現だが、スポーツには人の心を動かす力がある。

FIFAワールドカップの舞台で戦うサッカー日本代表。泥まみれになりながら白球を追う高校球児。クラスの全員がつないだバトンを手に全力で走る小学生。スポーツの種類やレベルに関わらず、ひたむきに取り組むアスリートの情熱に、人は心を動かされ、情熱を共有し、応援する。妥協も打算もない純粋な情熱を誰もが共有できることがスポーツの価値の根源であり、スポーツビジネスの土台となっている。

スポーツビジネスにおいては来場者収入、放映権収入、物販収入、そしてスポンサー収入が4大収入と言われ、応援者はいずれか、あるいは複数の収入に貢献する形でスポーツクラブやアスリートを支えている。

試合会場で応援するなら来場者収入に、テレビやタブレットで応援するなら放映権収入に、より本格的に応援するためにユニフォームを購入するなら物販収入に貢献していることになる。また、法人として応援するならスポンサー収入に貢献している。つまり、スポーツビジネスの4大収入は応援手段の提供が基礎となっており、スポーツビジネスにおいてはスポーツの情熱を共有する応援者を増やすことが何より重要である。

元記事において、「10億人のグローバルフォロワーを自慢」するだけでは見込みスポンサーには意味がないと示されているが、スポーツの情熱を共有し、スポーツクラブやアスリートを応援したいと考えている企業にとっては、「10億人のグローバルフォロワー」という応援者の仲間がいるというデータ自体が大きな意味を持つ。

しかし、スポーツビジネスを大きく成長させるためには、情熱を共有する応援者を増やすだけでは十分とは言えない。スポーツにも多種多様な競技があるし、人が情熱を共有する対象はスポーツだけではないため、限られた中で応援者を増やすこと自体にも限界がある。つまり、その限界を超えていくためには、応援者以外の人々や法人をスポーツビジネスに巻き込み、スポーツビジネスへの参加者を広げていく必要がある。

 

当たり前のことを取り入れる

例えば、ある企業が商業施設に飲食店を誘致しようとした場合、当該施設の商圏となりえるエリアの人口や住民の属性、ライフスタイルや平均所得など、誘致対象が判断を行うために必要なデータの調査を行うし、当該施設の見込み顧客とマッチする顧客層を持つ飲食店を誘致のターゲットとするだろう。

このようなデータ分析はビジネスにおいてはごく当たり前で、スポーツビジネスにおいても当然に行われるべきである。先述の「10億人のグローバルフォロワー」のケースに置き換えると、「スポンサー企業の見込み顧客」という視点で調査したデータを「見込みスポンサー」に提供し、企業が出資することのビジネス価値を客観的に示さなければならない。

別の例を挙げると、アパレルのハイブランドが自ブランドのヘビーユーザーだけでなく、より広い顧客層を獲得するために行うセカンドラインの展開がある。元々の顧客層はある種ブランドのファンであり、ファッションの情熱を共有する応援者と見なすこともできるだろう。一方、セカンドラインは元の顧客層ほどの情熱を持たない層をターゲットに展開している。

元記事の例を参照すると、スポーツビジネスにおいてもクリエイティブディレクターの登用などを通じて、情熱を共有する応援者以外にも物販販売のマーケットを拡大するなどの策を講じることができるだろう。つまり、一般的なビジネスにおいて当たり前の行動を、もっとスポーツビジネスに取り入れていくことが必要である。

上記が思うように進まない大きな理由は、スポーツビジネス界のビジネスパーソン自身が応援者であることだ。彼らの本質的な目的はスポーツへの貢献であり、スポーツビジネスに携わること自体で目的の一部が達成されているので、スポーツビジネスをさらに発展させようという意識が芽生えにくいのかもしれない。

仮にスポーツビジネスの発展を考えたとしても、自身が応援者であるがゆえに、彼らは応援者を増やすことに傾倒してしまいがちである。法人、個人を問わず、彼らが接する顧客の多くは情熱を共有する応援者であるため、誰もが応援仲間になり得ると考えてしまうのだろう。つまり、応援者自身が応援者を増やす形でビジネスを発展させており、応援者以外の視点や知見を持ったビジネスパーソンの参画がなかなか促されていない。

スポーツの情熱を共有する応援者以外の人を巻き込まなければ、スポーツビジネスのさらなる発展が見込めないにもかかわらず、応援者同士の閉じたコミュニティ、閉じたビジネスの殻を破れていない現実がある。スポーツの特異性である「共有」「感情移入」「一体感」をビジネスの潜在的価値として活用し切れていないのである。

スポーツビジネスを発展させるためには、「スポーツの持つ妥協も打算もない純粋な情熱を誰もが共有できる」というかけがえのない価値だけに依存せず、他のビジネスで行われている当たり前の行動を取り入れていくことが必要で、それによってスポーツビジネスが本来持つ価値をさらに発揮できるようになるだろう。

参考記事(出典:Sports Pro)

2023年、スポーツのスポンサーシップとマーケティングについて学んだ10のこと


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この記事を書いた人

Shota UJIIE

氏家 翔太 Shota UJIIE

シニアリサーチディレクター

外国語教育関連企業CEOを経て、2019年5月に今治.夢スポーツ入社。同年11月より執行役員。2023年3月にデロイト トーマツ コンサルティングに入社し、スポーツと教育の分野における社会的価値の創出のモデルづくりに注力する。

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