• 所長観戦体験記

2024.02.16

野球はヒーローを生み出すスポーツ【所長観戦体験記 #001】

2024年も世界各地でスポーツのイベントが目白押しである。会場やテレビ、配信で初めて観戦するスポーツもあれば、見慣れたスポーツの変化や進化を感じることもあるだろう。

昨年10月に開設したウェブサイト「SPORTS BUSINESS LABORATORY」では、「Interview」「Curation」「Case Study」を公開しているが、「Case Study」にもう一つコンテンツを加えたいと思う。

野球、サッカー、バスケットボール、ハンドボール、バレーボールやアイスホッケーなど、様々なスポーツを年間100試合以上現地観戦(2023年は137試合)している所長・森松誠二が、観客目線で気付いたことや思ったことを徒然なるままに紹介する新コーナー、題して「所長観戦体験記」である。

第1回は野球をクローズアップ。野球にはヒーローを生み出す「仕組み」があった。

日本で2番目に古く、国民に定着しているスポーツ。野球

1934年に誕生した日本のプロ野球は、今年で90周年目を迎える。相撲に次ぐ日本で2番目に古いこのプロスポーツは、すっかり国民的スポーツの一つとして日常に定着している。オープン戦や親善試合、国際大会を含めると、一年中どこかでプロ野球選手が試合をしていると言っても過言ではないくらいだ。

野球という競技の特性がここまで定着させたのか、定着したからここまで普及したのかは今回は言及しないが、シーズンに入ると毎日のように複数の球場で平均3万人が集まるプロスポーツはプロ野球しかない(2023年シーズン実績:平均入場者数29,219人「出典:一般社団法人日本野球機構」 )。

試合中に何人も生まれるヒーロー

一方で、来場者数の伸び悩みや選手の海外流出など課題もあり、対策として選手の個性に注目した施策や、ファンや地域とのコミュニケーションの進化など様々な工夫が行われている。その結果として構築された一つの特徴が、試合中にヒーローが何人も生まれる仕組みだ。

単純に言えば、野球は表、裏の攻防を9回繰り返すスポーツである。そのため各回において守備側のチームでは投手の三振奪取や野手のファインプレー、150kmを超える球速などが、攻撃側のチームではホームランや好走塁など、印象的で様々なプレーを目にすることができる。

例えば、リードを許していたチームがホームランで逆転すると、直後に当該選手が守備につくときに観客席から大歓声がわき、万歳三唱をする。逆に、ピンチを救うファインプレーをした選手が打席に向かうときは数秒間、球場が大歓声に包まれることがある。一人ひとりの登場曲があることも、とてもユニークだ。

そして試合終了後には、「投のヒーロー」と「打のヒーロー」など複数人の選手が、お立ち台でヒーローインタビューを受ける。球場によってはその間、抽選に当たったファンがグラウンドの中でインタビューを見守り、最後の場内一周では「今日のヒーローたち」とハイタッチをすることができる。

投手の1球ごとにプレーが行われるため、それが特別なプレーではなかったとしても、一人の選手に観客全員が注目するという時間が連続して起こるのが野球なのである。

こういう体験をした観客は、それぞれが「自分だけのヒーロー」を見つけたり、仲間と共感することができたり、あるプレーがきっかけで推し選手が見つかったりと、それぞれがそれぞれの楽しみ方ができるようになっている。

様々な価値観を楽しむ観戦体験

日本のプロ野球において、初期の観戦環境がどうだったかは分からない。現在よりテレビは普及していないし、娯楽と呼ばれるものの選択肢が圧倒的に少なかっただけに、現在の他のスポーツと比較するつもりはないが、野球が90年かけて成熟してきたことはよく理解できる。

長いときは試合時間が4時間近くになることもあるが、最初から最後まで観戦しなくても仕事や学校帰りにふらっと見たり、一緒に来場した仲間との談笑をメインとしつつ歓声をきっかけに慌ててプレーを見たりと、観戦の「自由度」が高いことも野球の特徴と言えるだろう。

さらに、スポーツ観戦の醍醐味の一つである会場の一体感を楽しむこともできる。ライトスタンドの応援団が常に盛り上げてくれていて、そのリズムに合わせて会場が一体となった応援に、いつでも自由に参加することができる。そこに強制力や同調圧力のようなものはない。

今年も3月下旬からシーズンが開幕する。近くのスタジアムに足を運んで、「あなただけのヒーロー」を見つけてはいかがだろう。

第1回は日本のプロ野球観戦で感じたことをご紹介した。これはMLB(Major League Baseball)と比較すると必ずしも同じではなかったり、また他のスポーツだったりすると全く異なる観戦体験や気付きがある。所変われば観戦体験も変わる。今後も観客目線での気付きを紹介していきたい。

この記事を書いた人

Seiji MORIMATSU

森松 誠二 Seiji MORIMATSU

所長

コンサルティング会社数社を経て現職。一貫してCRMとCXプロジェクトを担当。デロイト トーマツ コンサルティングのスポーツビジネスグループにて、スポーツの新たな価値創造やパートナーアクティベーション、スポーツビジネスコミュニティの活動企画、実施に従事する。

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