• パートナーシップ

2024.03.01

スポーツクラブは、どのような存在であるべきか

本記事は本サイト内、「Curation」にある「2024年の予測:スポンサーシップ業界はさらなる成長と革新の兆し」に対する考察記事である。

地域のお祭りの日――。はしゃぎながら屋台をめぐる子どもたち。普段はあまり縁のない浴衣を着た若者たち。長年一緒に過ごしてきた地元の仲間と共にお神輿を担ぐ大人たち。みんなが楽しむ様子を微笑みながら見守る老夫婦。夜には花火が上がり、老若男女が同じ空を見る。日常の街に訪れる非日常。いつもと違う活気と一体感が生まれる。

そんな日本の風物詩は多くの人に支えられて成り立っている。運営は自治体や自治会が中心となり、有志の手を借りながら行われる。運営費用は地元の人や企業の寄付で賄われている。地域が一体となって楽しむことができる非日常を生み出すために、見返りを求めるのではなく、地元への愛着と思いを持つ人々が一体となって支えている。

プロスポーツの試合もしばしばお祭りに例えられる。確かに、屋台のように飲食店など様々なブースが出店し、老若男女がチームを応援するという活気と一体感にあふれた非日常を生み出すあたりはお祭りによく似ている。

とりわけ地方のプロスポーツクラブにおいては、地域の方々がボランティアスタッフとして試合運営を大きく支えており、資金面でも地元企業がスポンサーとしてチームを支えている点も、お祭りに似ているポイントである。

2024年、米国のスポーツ市場の展望

しかし、プロスポーツはお祭りではなく、興行であり、ビジネスである。

元記事の中では、国内外の新たな市場への戦略的なリーグ拡大や放映権の価値向上、そしてAIやARという現代的な技術を活用した新たな体験と、ブランド露出の在り方の開拓を背景に、米国のプロスポーツ、とりわけ女子スポーツのスポンサーシップ市場が大幅に拡大していることが述べられている。

これはつまり、米国のプロスポーツ界においては、現代的なテクノロジーを用いてプロスポーツの価値を向上させること、そして向上した価値を持って国内外、さらに仮想現実の世界に新たな市場を開拓して価値の提供先を広げることでより多くのファンを獲得し、ファンが増えるがゆえにスポンサーシップ市場が拡大しているということである。

拡大するスポンサーシップ市場の主要なプレーヤーとして、スポーツベッティングの存在が述べられている。ひいきのチームを応援するための試合観戦というプロスポーツの楽しみ方だけでなく、ひいきにしてはいないチーム、あるいは特別に興味を持っていない競技をベッティングの対象として観戦したり、リアルタイムで情報を取得したりという応援以外の関わり方の市場が大きく発展しているということである。

このような傾向は今に始まったことではない。つまりは、スポーツの価値を高めることにより、スポーツが誰かに支えてもらう対象ではなく、投資の対象となっているということである。

ビジネス面では多くの伸びしろがある

あらためて日本のスポーツに目を向けてみる。

地域の人々や企業に支えてもらいながら、クラブを応援する人々に非日常の活気と一体感をもたらしており、前述のとおり地域の人々にとってのお祭りのような存在となっている。そんなスポーツクラブが、特に地方に数多く存在している。

これらのクラブには、外部の人材や企業と連携していくことでスポーツの価値を高められる伸びしろがあり、価値を高めることで地元以外のファンやパートナーを広げていく可能性があり、ビジネスという観点ではまだまだ発展途上と言えるだろう。

ただし、ビジネス的な成長を遂げることが絶対ではない。地域の神社で行われるお祭りの良さがあるように、地域の人に支えられながら地域の人のために存在するスポーツクラブも良いだろう。しかし、ビジネス面での成長を目指すならば地域に支えてもらうという考え方を払しょくし、地域の人に支えられる必要がない価値を生み出す経営を行わなければならない。

スポーツクラブが考えなければならないのは、地域の人々にとって心のよりどころとなるサステナブルなクラブを地域の人とともに継続していくのか、地域の枠を飛び出て新たなファンとビジネススキームを作り、ビジネスとしてサステナブルな発展をしていくのか、どちらを自らが目指すのかを明確にするということである。

参考記事(出典:Sponsor United)

2024年の予測:スポンサーシップ業界はさらなる成長と革新の兆し

この記事を書いた人

Shota UJIIE

氏家 翔太 Shota UJIIE

シニアリサーチディレクター

外国語教育関連企業CEOを経て、2019年5月に今治.夢スポーツ入社。同年11月より執行役員。2023年3月にデロイト トーマツ コンサルティングに入社し、スポーツと教育の分野における社会的価値の創出のモデルづくりに注力する。

Back to Index