今回はデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、デロイト トーマツ)の『スポーツで新たな価値を創る – Sports Business Group』を参照し、なぜデロイト トーマツがスポーツビジネスに取り組むのか、その意義や目的について、当ウェブサイトの運営メンバーであるBlue Unitedの中村・田口と、デロイト トーマツの森松・氏家があらためて議論した内容をお届けします。
エコシステム構築へのチャレンジ
田口 「スポーツビジネスコミュニティの始動から約1年が経過したところで、スポーツビジネスに取り組む理由を、あらためて議論できればと思います」
森松 「デロイト トーマツはスポーツの分野でパートナーシップなども含めて様々な活動をし、グローバルでは各国のスポーツ団体をクライアントとしてビジネスを展開していますが、日本のスポーツビジネスの市場としてはまだまだ成長段階であると感じています。しかし、スポーツに関わりたい、そのコンテンツを生かしたいという企業や自治体は確実に存在し、増えてきています。我々がそういった企業・自治体をサポートすることで、企業や自治体とスポーツ団体の連携が増え、ヒト、モノ、カネ、情報が流通し、新たな価値創造や価値の循環が行われるようなエコシステムを構築してきたいと考えています。下図の3つはその実現に向けたアプローチと捉えています」
田口 「ここで掲げられる『新たな価値』について、具体的なイメージはどのようなものでしょうか」
森松 「このラボでも取り組んだSROI(Social Return on Investment:社会的投資収益率)もその方法の一つですが、スポーツの価値を客観的に分かるように可視化し、それをどう活用するかを考える必要があります。言い換えれば、スポーツが持つアセットを本質から追求し、それを生かしてマネタイズするということです。全てをお金につなげる必要はありませんが、これまでのようにお金以外の価値をそのままでとどめているだけではエコシステムは構築できません」
田口 「具体的な数字目標は掲げられていませんが、ビジネスとしてお金を生み出していくことに関しては、御社の強みだと思います」
森松 「当社はコンサルティング会社としてスポーツ団体以外の組織や産業とも長く、広くそして深いお付き合いがあり、各業界や企業、組織の持つ課題を把握し、その解決を行っています。今後は我々自身も何ができるのかを検証しつつ、マネタイズに対してチャレンジしていきたいと思っています」
田口 「氏家さんのお考えもお聞かせください」
氏家 「どれだけ良いことに取り組んでいても結局、資金面の問題は避けられません。例えば、子どもたちから多額の参加費を取らなくても、Jクラブのサッカー教室が持続できるシステムが必要だと思います。参照記事のモデルを、私は平面ではなく3次元で捉えています。『Empowering Sports』はスポーツ自体の価値を上げること、『Connect Sports』はスポーツを使って掛け算をすること、『Beyond Sports』はさらに新しい価値を生み出すことで、この3つの掛け合わせでスポーツ業界が発展していくと考えています」
ロジックと感情の両方を理解する
中村 「スポーツ業界の発展を考える上では、スポーツには特異性が存在するので、何となくの感覚論で済ますのではなく、原理原則を理解することが大切だと思います。例えば広告掲載を検討する場合、駅の看板と自分の好きなスポーツクラブの看板だったら、スポーツを選ぶケースが多いでしょう。なぜなら、それを誰かと共有したいという思いがあったり、そのクラブに感情移入したりしているからです。このようにスポーツが持つ特異性を理解していれば、スポーツをビジネスに活用する際に説得力が増すと思います」
森松 「私はコンサル業界の経験が長いのですが、ロジカルシンキングの役割は大きく変わってきていると思っています。なぜなら、人はロジックでは動かないからです。ロジックは人が何かを決断したことに対して、後付けで説明するために使われることが現実には多くあります。特にスポーツは人の感情に影響を与えるものなので、その部分をロジックで説明するのは非常に困難です」
中村 「それは事実ですが、ビジネスにつなげるには、ロジックと感情の両方を理解して説明する必要があると思います。例えば水という商品を購入する際は、静かにレジで購入します。一方で、スポーツで商品を購入・消費する際は大声をあげて感情移入したり、一緒に応援歌を歌って共有したり、重要な局面で声援をより一層大きくして一体化するなど、感情の部分をロジカルに話せるかが重要なのです」
森松 「確かにそうですね。さらに最近は、積み上げたロジックの検証方法まで提案できないと、人は動かないと感じています。これまでコンサルファームに求められてきたロジカルシンキングや仮説を立てる力は、既に一般企業でも得られるスキルになっているので、我々はその先に進まなければいけないと思っています」
中村 「プロスポーツクラブにおいてパートナー契約の更新時に必要な話が、まさに検証ですよね。客観的な根拠を元に価値を示すことができれば、説得力が全く違います」
氏家 「FC今治とデロイト トーマツの契約においても、以前はPV数などを共有していましたが、果たしてそれがどれだけの価値を生んでいるかを、互いに深く理解できていませんでした。単純にPV数を求めるだけであれば、上位カテゴリーの方が良いという判断になってしまいます」
中村 「パートナーになる目的は会社ごとに異なるので、先日のFC東京の川岸さんの言葉にあったとおり、相手に寄り添って価値を示す必要があるわけですよね。ある企業のために、自分たちのアセットで何ができるかを相互に考えなければいけませんし、なぜスポーツというものを用いるのかを説明できるとなお良いです」
氏家 「相手の課題を見定めることが非常に重要ですよね。『好き』という力強い要素に頼るだけでなく、特段スポーツが好きなわけでもない企業をいかに巻き込んで、お金のサイクルを作るかが重要で、いわゆるファンを増やすという発想だけでは限界があるだろうと感じています」
中村 「デロイト トーマツはこのラボを通じて、スポーツに集まる共感と感情移入の力、みんなが一体化する現象などスポーツの特異性をどう使うのか、スポーツの特異性の解析を試みているとも言えますね。その取り組みによって、スポーツビジネスに広がりが生まれると思います。重要なのは各論に入り込み過ぎないことでしょう。誰かの事例は伝わりやすいのですが、その背景にある理由や原理原則を理解した上で、解決策などを考えることが大切だと思います」