• パートナーシップ

2024.04.17

B2Bマーケティングの仕組み作り

SPORTS BUSINESS LABORATORYの今回のテーマは「パートナーシップ」でした。アクティベーションの事例を目にすることも増え、浸透してきているようにも見えますが、それは本当なのでしょうか。これらの事例の継続性、再現性、発展性はどれくらいあるのでしょうか。

カタログのように並ぶアクティベーションの事例を見て、クラブ、リーグ担当者やパートナー企業が「これをやりたい」と選ぶ姿を目の当たりにしたことがあります。これは、従来広告掲載枠のカタログを持って営業をしていることと何も変わっていないのではないでしょうか。それはつまり「仕組み化」がなされていないのです。

1990年代後半からのSFA、CRMブーム

かつて3Kと呼ばれた職種がありました。営業です。「きつい、汚い、危険」ではなく「勘、経験、根性」。これに「気合い、度胸、義理、人情、浪花節」が加わることもあり、完全に個人に依存した営業スタイルが典型的でした。

それが1990年代後半になって営業改革として効率化、増力化が行われるようになりました。海外から参入してきたSFA(Sales Force Automation)ソフトウェアベンダが持ち込んだ様々な考え方が日本の多くの企業に紹介され、そして導入されました。

例えば…

チームセリング:営業を個人商店としてではなく、チームとして役割を分解・分業し営業活動を行う。これによって従来は開示してこなかった個人の持つ営業情報を共有することが促進された

ファネル管理・パイプライン管理:営業活動を見込み段階からクロージング、成約までを複数の段階に分解し、商談や見込み客数は徐々に減っていくという考えのもと、それぞれの段階の売上げ想定額を一定のルールで積み上げることで売上金額を管理する手法

アカウントマネジメント:Share of walletの考え方が基本になるが、その顧客にどれだけ自社が浸透しているか、その浸透レベルを数段階に分け、初期はホワイトスペース分析からはじめ、最終的には共同ビジネスの立ち上げなど、その関係性の深化を組織として戦略を立て、実行、管理していく手法などです。

営業だけでなくカスタマーサービスやコールセンター(コンタクトセンター)も顧客接点業務として見直しや改革が行われ、これらはCRM(Customer Relationship Management)という考え方に吸収されていきました。この時期、数え切れないくらいのSFAソフトウェア、CRMソフトウェアが市場にあふれていましたが、10年も経つと淘汰され現在残っているのは数えるほど。これは、日本における、スポーツではなく一般産業における営業改革、CRMの歴史です。

他産業の取り組みが参考に

スポーツビジネスにおいてCRMというとtoCのイメージで用いられることが多いのではないでしょうか。しかしながら法人や団体に対して営業活動を行い、それが1回の取引ではなく最低でも1年(1シーズン)、長くなれば例えば鹿島アントラーズとLIXILのように10年以上も関係が続き、アクティベーションというプロジェクトが行われるようなパートナーシップの考え方においては、スポーツビジネスにおいても他産業同様にB2Bマーケティングを実行していくことは当たり前のことだと考えられます。

つまり、データに基づきその企業、団体の抱える課題を把握し、自分たちのアセットやサービスでそれを解決できる手段を検討し、その実行についての計画を立て、チームとして役割分担した活動を実施し、日々それをマネジメントすることが求められています。

こういった仕組み作りは日本の一般産業では少なくとも30年かけて行われ、そのノウハウが蓄積されています。日本のスポーツビジネス関係者はゼロから仕組みを構築する必要はありません。他産業の取り組みを参考にし、自分たちに合うように導入していけば良いのです。FC東京の川岸社長の取り組みは、まさにそれを実行していると言えるでしょう。

体験価値が重視される段階に

顧客体験。これも消費者(個人)に対する考え方として一般的には捉えられています。スポーツで言えば観戦体験になるでしょう。しかしながら他産業では企業内個人に対して提供する体験を可視化し、その改善をすることで意思決定を促すというアプローチが取られています。

そうであるならば、スポーツビジネスがパートナー営業(マーケティング)において取り組まない理由はどこにもありません。権益の行使だけではなく、その行使をする「体験」をどうやって提供していくかを考えていく必要があります。

欧州に本社を持つ世界的な有名な某企業は「カタログスペックでは競争できない。顧客に選ばれる企業はみな、優れた体験を提供している」というベンチマーク結果を踏まえ、5年以上にわたって世界中の拠点で体験向上プロジェクトを展開しました。その際に最も重要視されたのは「顧客の立場で、視点を変える」ことでした。仕組み作りと視点の転換、パートナーシップの改善・強化・浸透にとって大切な取り組みです。

プロセスやルールなどは設計をするだけでは機能しない。それを実行するためのスキルの定義や人材の獲得と育成、そしてツールの導入が不可欠だが、それについてはまた別の機会に述べたいと思います。

 

P.S.
筆者が初めて営業行為を行ったのは大学生のとき。部活動の全国大会(インカレ)が地元で開催されるため、そのパンフレットに掲載する広告主を探してくることだった。パートナーシップなんてかけらも考えていなかった私は、自分の所属する大学は出場しないにも関わらず、「頑張っています。応援してください」とひたすら地元の企業や商店街を歩いて回った。あのころの自分にアドバイスをしたい。

この記事を書いた人

Seiji MORIMATSU

森松 誠二 Seiji MORIMATSU

所長

コンサルティング会社数社を経て現職。一貫してCRMとCXプロジェクトを担当。デロイト トーマツ コンサルティングのスポーツビジネスグループにて、スポーツの新たな価値創造やパートナーアクティベーション、スポーツビジネスコミュニティの活動企画、実施に従事する。

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