• 強化部ビジネス

2023.11.21

世界で戦うための問いかけ【後編】

野々村 芳和

Jリーグ チェアマン

Jリーグのチェアマンに就任してから、自戒の念を込めて強く感じていることがあるという。

選手としてプレーしていたとき、クラブで社長を務めていたとき、本気で世界を目指して取り組んでいたのだろうか――。

だからこそ、日本サッカーを牽引するJリーグのトップに立つ今、様々な意見がある中でもブレることなく視線を世界に向ける。

その提案は、日本サッカー界に関わる人々への問いかけでもあるのだ。

チェアマン就任後、クラブでの経験を生かして改善された点はありますか。

自分自身の経験を振り返って強く感じていることは、本気で世界を目指して取り組んでいたのかということです。私がプレーしていた当時はJリーグが開幕したばかりで、 世界に出ていくぞと本気で思っていた選手はごく一部でしたし、社長時代も世界との競争を本気で意識できてはいませんでした。

世界のトップレベルで競争している人たちは、常に世界レベルでの戦いを意識していますし、日本でも海外のクラブへ移籍する選手が増えています。日本の多くの子どもたちでさえ、世界のサッカーの情報に触れている。にもかかわらず、サッカーに携わる私たちが本気で世界を目指していたのかどうかと、自戒を込めて本当に強く感じています。

我々は今、30年後のJリーグの目指す姿を様々な角度から検討しています。その一つにシーズン移行の議論がありますが、例えば選手のパフォーマンスに関する様々なデータを分析してみると、 やはり夏の暑い時期のデータが大きく下がっていて、シーズン開幕当初にピークが来ている状況が分かりました(Jリーグ 2023年度9月理事会後会見資料より引用)。

 

対して、8月に開幕する欧州のトップリーグでは、シーズン中盤に向かって大きな山を描き、終盤に下がっています。つまり、シーズン開幕後にインテンシティーの高いゲームを繰り返してコンディションが高まっていき、疲労の影響で徐々に落ちていく。これが本来あるべき形のはずです。

しかし、日本では最も高パフォーマンスを発揮できるはずの時期が、夏場と重なってしまいコンディションが上がっていきません。欧州でのプレー経験のある選手が、「日本と欧州でサッカーは別のスポーツ」とコメントすることがありますが、シーズンを通してのコンディション管理の違いが大きな理由の一つではないかと考えています。

私はJリーグの試合を「作品」と表現していますが、作品において最大の要素であるフットボールの魅力を高めるために試合の開催時期を変更することが、もしかしたら改善策の一つになるのではないかと考えています。今回のテーマである強化部ビジネスの観点でも、良い選手を育てて移籍金を獲得することが当たり前だとすると、選手たちにより良い環境でプレーさせてあげることが重要になるでしょう。

チェアマンとして何かを改善する際には、根本の部分で世界基準のマインドを大切にしています。国内の競争だけを考えれば、酷暑の中で相手よりどれだけ頑張れるかという評価軸でも良いですが、世界に視線を向けた場合は、その考え方では戦っていけないでしょう。色々な議論をしているうちの一つであるシーズン移行の検討は、この議論の先にあるわけです。

世界基準の観点の議論からは、他にはどんなものがありますか。

海外移籍の観点では、 世界のマーケットにおいて最もお金が動くのは欧州のプレシーズンですが、その時期はJリーグではシーズンの真ん中にあたります。単純にJクラブのチーム編成を考えても、シーズンの途中で中心選手が抜ける影響は非常に大きいものがあります。

開幕時期の変更だけでこれらの課題が一気に改善されるとは思いませんが、重要なのは最もお金が動くタイミングでビジネスをしようと考え始めることであり、クラブの皆さんに対しての「この先も国内のマーケットだけを見ていていいのですか」という問いかけでもあります。クラブや各クラブの強化部の成長を促すためには、世界の競争の中に入っていくんだと、覚悟を持って決めることが必要だと考えています。

Jクラブが正当な移籍金を得るためには、いくつもの打ち手があると思いますが、様々なことにチャレンジしながら、ゼネラルマネジャー(GM)や強化部長が成果を上げ、選手や監督と同じように評価され、他クラブに引き抜かれるような循環を作らなければいけません。しかし、そもそも移籍金を得ようと考えない限りは、少なくとも収益面で彼らが評価されることはないでしょう。

GMや強化部長はクラブの1番重要な役割を担うわけですから、本来はもっと評価されるべき人材がたくさんいるはずです。例えば、限られた予算の中で結果を出せることも魅力ですし、予算の多いクラブよりも上の順位にいけたら評価されるべきです。それゆえ、当然、移籍金でクラブにどれだけの収益をもたらしたかの評価も忘れてはいけません。

MLSにおける今夏の移籍期間の最高金額は、ホン・デュラン選手の2,200万ドル(約32億円)でした。これは単に選手の価値が高いだけでなく、強化部の力量も大いに影響しています。日本が海外から高く評価されている中で適正な移籍金を得るために、GMや強化部長にはどういった要件が求められるでしょうか。リーグとしても制度設計が必要だと思います。

まずは、絶対的に情報を持っていなければいけません。インターネットで得た情報だけでなく、自分の目で見ることや信頼できる人に聞くことも必要です。語学力も含めて、コミュニケーション力は最低限の要素でしょう。

Jリーグと欧州のトップリーグを比較すると、現状では移籍金収入と放映権収入で大きな差がありますが、放映権収入よりも移籍金収入を上げる方が現時点では実現性が高いと考えています。だからこそ、我々も含めてマインドを変えることが1番大事ですし、より価値の高い選手を輩出するために、いかに環境を整えるかという議論に戻っていくわけです。

主観だけでなく、客観的に判断できるか否かも重要な要素だと思います。

そのためには、データを管理し、活用できる能力も必要ですね。様々な能力が求められる中で、GMを目指す人を輩出するためにも、結果を出した人の報酬を上げる等の対応が必要だと思っています。社長時代のノートの1ページ目を見返すと、「強化費を5倍にする」に加えて、「スタッフの人件費を 2倍にする」と書いてありました。

例えば、欧州を拠点に人材をリストアップしたり、Jリーグの成長に必要な人材を定義したりと、リーグとしても情報をアップデートしていきたいと考えています。そのためにも欧州クラブと話をしたり、Jリーグワールドチャレンジを通じて交流したり、海外とのコミュニケーションが重要です。これからのJクラブを担っていく若い人材に、彼らが目指すべきクラブ像に触れる機会を提供することも考えています。

私は、みんながチャレンジできる空気をいかに作るか、という観点で制度設計をしたいと考えています。「平等」の定義に関しては、リーグとしても議論が必要だと思いますが、機会の平等を実現する制度を整えることで、アジアに限らず、世界を意識することのきっかけを作れればと思っています。30年後のJリーグのありたい姿から逆算し、「まずはみんなで世界を見ましょうよ」ということですね。

プロフィール

1972年生まれ。清水東高校から慶應義塾大学に進学し、1995年にジェフユナイテッド市原(当時)に加入。コンサドーレ札幌(当時)へ移籍した翌2001年に現役を退いた。サッカー解説者等としてメディアに出演しつつ、札幌のチームアドバイザーを務め、2013年に株式会社コンサドーレ代表取締役社長に就任。チームに関わる方とのコミュニケーションを大切にし、多くのファン・サポーターから愛された。2022年3月にJリーグ第6代チェアマンに就任し、地域に根ざした全国60クラブを盛り上げ、世界と肩を並べるサッカー文化をつくることを目指して奮闘している。

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