• 社会的価値

2025.01.06

ハワイの地域社会に継続的に貢献したい【前編】

Javier Sanz

COO and VP of Business & Legal Affairs of Blue United Corporation

スポーツの社会的価値をテーマにした第4回は、Blue United CorporationのJavier Sanzに話を聞いた。

同社が2018年からハワイで開催中のPacific Rim Cupの狙いや、2年連続で分析した同イベントのSROIの算出結果などから、その社会的価値を深掘りしていく。

※参照記事:スポーツとコミュニティが生み出す社会的価値と事業の継続性 ~ サッカークリニックの社会的インパクトと事業継続について考える

 

まず、ご自身の経歴について教えてください。

私はスペインのマドリード出身で、マドリード自治大学の法学部を卒業しました。学生時代のインターンシップで国際スポーツ法に取り組む機会があり、それが私にとって興味深い分野だと気づき、ニューヨークでのスポーツ法の修士号取得につながりました。

2015年からはISDE(Instituto Superior de Derecho y Economia)米国支部の責任者として、カリキュラムの設計、学生の募集、教授の採用などを通じて、同校をスポーツ業界でトップクラスのプログラムにする仕事をしていました。そして、2017年にISDEを通じて知り合った中村からオファーを受けたとき、私は迷わずBlue Unitedに入社しました。今はCOOとして働いています。

スポーツに興味を持ったきっかけは何ですか。

私の家族は昔からスポーツが大好きでした。父は生涯バスケットボールをしていましたし、母はスペインのバスケットボールのジュニア代表チームでプレーしていて、両親はバスケットボールを通じて知り合いました。スポーツは家族や様々な人々とつながる手段であり、私自身も子どもの頃から両親と一緒にやってきたことです。スポーツは常に私の人生の大きな部分を占めてきました。

私は18歳のときにラグビーと出会い、スペイン最高峰のリーグでもプレーしましたし、ブラジル、フランス、スペイン、米国で働きながら合計15年間にわたってプレーしました。ラグビーには他のスポーツにはない特別な文化があります。それはチームとの家族のような一体感です。試合をするにはチームメートと同じくらい対戦相手が大切で、とてもアグレッシブな競技であるがゆえに、フィールドでは互いに気を配らなければなりません。

Blue Unitedがどのような会社か概要を教えてください。

当社は、クライアントの成長や国際進出の支援を専門とするコンサルティング会社です。プロジェクトをゼロから構築することを専門とし、クライアントが以前に実行しようとしたことのある、あるいは一度も実行しようとしたことのないアイデアを実現できるように支援します。

当社が他のコンサルティング会社と少し異なる点は、私たち自身もプロパティを所有していることです。その一つが今回のインタビューテーマであるPacific Rim Cup(以下、PRC)であり、私はCEOの中村とともに、プロジェクトマネージャーを務めています。

当社がPRCを創設し、継続的な拡大を目指す理由は、北米やアジアを含む環太平洋地域がサッカー界におけるネクスト・マーケットであり、そしてその地理的中心にあるハワイがサッカーを進化させ続けるには最適な市場であると考えているからです。2018年と2019年のPRCは、プロサッカーの国際試合の他に記者会見、子ども向けのサッカークリニック、VIPパーティー、高校生年代のオールスターゲームなどイベント満載の1週間でした。

国際的なパンデミックと試合会場だったアロハスタジアムの改修が重なってしまい、2020年からは中断を余儀なくされていますが、当社は小規模でもPRCを継続していく決断をしました。2022年と2023年は子ども向けのサッカークリニックのみを開催し、2024年は加えて子ども向けのサッカー大会も開催しました。

SROI(Social Return on Investment:社会的投資収益率)について解説させてください。SROIはプロジェクトを通じて生み出された社会的価値を金銭代理指標を用いて金銭的価値に置き換えることにより、その活動のインパクト評価を行う手法です。SROIでは生み出された社会的価値を投入資源で割るため、SROI値が「1.0」を超えた場合、投入資源より多くの社会的価値を生み出したことを意味します。PRCのSROIは、2023年が「1.37」、2024年が「1.03」で、これ以外に経済的価値も生み出しています。SROIの値が「1.0」を超えている、つまり投入資源を上回っていることについて、どのように感じますか。

私は非常に前向きな結果だと捉えています。当社が2024年もイベントの開催を継続し、子ども向けのサッカークリニックとサッカー大会を開催した理由は、プロサッカーの国際試合をハワイに誘致するという、2017年に始まったより大きな計画に起因しています。

現在、以前の会場だったアロハスタジアムが閉鎖され、2028年の開業に向けて新スタジアムが建設されていますが、当社はPRCを小規模でも継続して開催する決断をしました。それはハワイのサッカーファンを増やし続け、地域社会に貢献し続けるためです。つまり、社会的価値であるSROIが投入金額を上回ったという事実は、私たちにとって非常に前向きなことであり、当社が正しい方向に進んでいることを示しています。

SROIの値が前年に比べて減少した点については、どのように思われますか。なお、社会的価値は価値を享受したステークホルダーが多くなるほど大きくなる傾向があるため、イベントの影響を受ける参加者やその保護者の数が多ければ多いほど、イベント全体のSROIも高く算出される傾向があります。

2023年はより多くのファンを獲得することに重点を置き、参加費を非常に安価に設定しました。一方で2024年はサッカー、そしてPRCの真のファンを集めることを念頭に、イベントの開催時間を90分から150分に拡大するとともに、参加費を市場の標準価格まで引き上げました。

これにより参加者数が減少することは分かっていましたが、イベント全体としては少ない参加者でも前年同様の収益を確保することができました。また、これまで収集したデータを含めて顧客基盤から多くのことを学び、将来にわたってイベントを継続、拡大していくための貴重な情報を得ることができました。

参加者の人数が減少したことによりイベント全体のSROIは減少した反面、一人あたりの社会的価値の平均値は高くなりました。つまり、参加者や親などイベントの影響を受けた人々は、前年より大きな社会的価値を享受したということです。この結果に貢献した要因は何だと思いますか。

当社は長年にわたり市場価格より安い参加費、または無料で、非常に高品質でプレミアムな体験を提供してきました。PRCはBlue Unitedというプロのスポーツマネジメント会社が運営しており、専門知識、スタッフ、コーチを島外からハワイに持ち込むため、ある程度の運営費が必要になるのは当然のことです。

一人ひとりにより大きな社会的価値を届けることができたのは、具体的な計画を開始した2017年以来、PRCがハワイにおいて強力なブランドを構築してきたという事実を反映していると思います。つまり、2024年の変化だけによってもたらされたものではありません。イベントに関わった人々がPRCとのつながりをより強く感じ、PRCの品質を分かってくださっているからこそ、市場価格に応じた参加費を支払う価値があることを理解し、納得していただいたのだと思います。

※1/20(月)に公開予定の後編では、SROI分析の効果等について、より具体的な話に迫っていきます。

プロフィール

スペイン・マドリード出身、2012年マドリード自治大学法学部卒。2013年にスペイン法科学院ISDE、および米セントジョーンズロースクールにて国際比較スポーツ法修士課程修了。複数の法律事務所で国際法務コンサルタント、スペインレアル・サイクリング協会の法務アドバイザー等として活躍し、2014年にISDE・FIA国際法 国際賞を受賞する。2015年からISDE米国支部長を務めた後、2017年にBlue United入社。同社事業であるPacific Rim Cupのプロジェクトマネージャーの他、セビージャFCやヤンマーの事業で主担当を務める。

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