• 社会的価値

2025.01.20

SROIは非常に有効な手段となる【後編】

Javier Sanz

COO and VP of Business & Legal Affairs of Blue United Corporation

SROIを分析することによって、主催者はイベントの開催目的や、その効果がどのようなものだったかを検証することが可能となる。

そして、分析と検証を継続していくことが、イベントの価値を高めることにつながっていくのだ。

肌感覚で何となく満足するのではなく、ロジカルに分析するからこそ見えるものがある。

※参照記事:スポーツとコミュニティが生み出す社会的価値と事業の継続性 ~ サッカークリニックの社会的インパクトと事業継続について考える ~

 

企業としては経済的価値と社会的価値のバランスを考慮する必要があると思いますが、今後についてはどのように考えますか。

当社はより多くのハワイの子どもたちにPacific Rim Cup(PRC)に関わってほしい、つまりクリニックや大会に参加してほしいと考えています。なぜなら、スポーツは子どもたちの社交性を高め、健康的なライフスタイルを構築し、自身に対する肯定的な認識を築く力を持っていると心から信じているからです。

ただし、金銭的な側面において、ハワイにはPRCのようなプレミアムプログラムに参加する余裕のない家族が多数存在し、市場価格に合わせた参加費の設定によって、全ての子どもたちに参加してもらうことができない状況になってしまう事実は理解しています。より多くの子どもたちがPRCに参加できるようにするためには、ハワイ政府や地元企業から財政的な支援を得ることも必要になるでしょう。

私も2024年はハワイを訪れ、PRCが大きな社会的価値を与えていることを肌で感じました。イベントに参加した子どもたちだけでなく、その保護者やコーチもその影響を受けていると思います。過去2回のSROIの値はステークホルダーの内、会場にいた方々が享受した社会的価値を基に推定されていますが、PRCはそれ以外にもハワイの地域社会に影響を与えているのではないでしょうか。

当社がハワイでPRCを開催する大きな目的の一つは、地元コミュニティに真の利益をもたらすイベントを創出することです。その方法の一つとして、例えば最高レベルの指導者をハワイに誘致し、子どもたちと触れ合ってもらうことがあげられます。

2024年はMLS(Major League Soccer)所属、シアトル・サウンダーズFCのアカデミースカウト責任者であるDavid ”Bingy” Lara氏に加え、3年連続で元サッカー日本代表選手の山田卓也氏をスペシャルコーチとしてハワイ島外から招きました。これにより、ハワイの潜在的な才能とプロスカウトを結びつけたり、元日本代表選手を通じて国際交流を図ったりすることができます。

また、ハワイ出身の元プロサッカー選手であるKenji Treschuk氏とShandon Hopeau氏も同じくスペシャルコーチとして招へいしました。子どもたちが彼らのようなロールモデルと触れ合うことで、自分たちが十分に努力すれば、サッカーで生計を立てたり、夢を追いかけたりする方法の一つだと理解することができるのです。

ハワイの人々は、PRCがなければ彼らのような国際的な人材から学ぶ機会やインスピレーションを得ることができません。これが当社が提供する重要な価値の一つであり、SROIの算出結果に反映されているのだと思います。さらに、PRCを通じて良い影響を受けた人々が、イベント後に友人やチームメートにそれを共有することで、より多くの人々に影響を与えていると確信しています。

運営スタッフに関しても同じことが言えるのではないでしょうか。

そうですね。PRCでは運営に現地スタッフを雇用しています。それぞれに専門知識を持つ彼ら・彼女らが、プロサッカーイベントの運営に取り組む機会を得ることは、彼らだけでなく彼らがハワイで一緒に働く人々にも良い影響を与えているに違いありません。

PRCはプロサッカーの国際大会を毎年ハワイに誘致するという大きな計画です。これによってハワイがスポーツイベントの開催地として名を上げ、地域に大きな経済的影響を与えることになります。参考に2018年と2019年には、雇用創出、ホテル代や食事代の支出、直接的および間接的なマーケティング等を考慮すると、PRCはハワイに2~2.5億円(ハワイ州調べ)の経済効果をもたらしました。

PRCは、あなたにどのような影響や価値をもたらしましたか。

一つは会社として、もう一つは個人として、大きな価値があると思います。会社としては、ハワイの様々なステークホルダーと仕事をする機会があることです。当社にとっても、主要パートナーの一つであるデロイト トーマツ コンサルティングにとっても、消費者と直接仕事ができる機会は非常に貴重だと思います。弊社は主にBtoBの会社ですから、BtoCの仕事をする機会を通じて会社の成長が期待できます。個人の顧客に重点を置いたイベントの管理・運営方法を深く理解できるからです。

個人としては、様々な企業の様々なバックグラウンドを持つ方々とご一緒できる機会を通じてプロフェッショナル人材として成長でき、多くの人々と有意義な関係を築くことができました。私にとってハワイで過ごす1週間は特別な時間で、大会に関わってくれた方々とより親密な関係を築くのに本当に役立ち、私の人生経験の一部として永遠に残る思い出を作ることができました。

同感です。私にとっても本当に良い経験でした。2年連続でSROIを算出し、社会的価値を可視化したことで新たな洞察を得ることはできたでしょうか。

はい。参加者から率直なフィードバックを収集、分析してSROIを算出し、イベントを改善し続ける方法を見つけるには非常に有効な手段ですし。今後の大会でもデロイト トーマツ コンサルティングさんとの連携が不可欠だと思います。

2024年は子ども向けのサッカークリニックとサッカー大会を開催しましたが、将来的にはプロサッカーの国際大会を復活させる計画だと思います。今後、PRCはどのようなインパクトを残していくのでしょうか。

私たちの目標は、ハワイにプロサッカーの国際大会を誘致し、PRCを複数イベントが開催される真のスポーツの祭典にすること、そして世界のサッカー界で急成長をしている北米とアジアのサッカーを融合し欧州、南米に次ぐ第三勢力構築に貢献することで、環太平洋地域におけるスポーツ産業のリーダーにするために継続的に取り組んでいくことです。ハワイ州政府や地域コミュニティ、潜在的なスポンサー、参加するチームやその所属リーグなど、PRCの成功は数多くのステークホルダーに大きな経済的価値、そして社会的価値をもたらすと確信しています。

 

 

※1/6 (月) 掲載の前編は、こちら

プロフィール

スペイン・マドリード出身、2012年マドリード自治大学法学部卒。2013年にスペイン法科学院ISDE、および米セントジョーンズロースクールにて国際比較スポーツ法修士課程修了。複数の法律事務所で国際法務コンサルタント、スペインレアル・サイクリング協会の法務アドバイザー等として活躍し、2014年にISDE・FIA国際法 国際賞を受賞する。2015年からISDE米国支部長を務めた後、2017年にBlue United入社。同社事業であるPacific Rim Cupのプロジェクトマネージャーの他、セビージャFCやヤンマーの事業で主担当を務める。

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