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2024.03.27

間違いではなく、違うだけ【前編】

岡田 武史

株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長

今回は「特別編」として岡田武史氏にご登場いただき、3回に分けて記事をお届けする。

前編はFC今治のオーナーとして、なぜ、何にチャレンジしているのか、について。

そこには、プロサッカークラブの運営に留まらない強い思いが込められていた。

本企画は通常あるテーマに沿ってお話しいただくのですが、様々なご経験をされている岡田さんには「特別編」として幅広くお話しいただければと考えています。具体的には、株式会社今治.夢スポーツを経営される中でお考えのこと、今春からスタートされたFC今治高校のことなどを伺えればと思います。まずは、愛媛県今治市に行かれ、FC今治のオーナーになられた経緯を教えていただけますでしょうか。

日本代表が世界で勝つためには、監督に言われたことだけでなく、主体的にプレーできる選手が必要だと言われ続けてきました。奥寺さん(康彦:現横浜FCシニアアドバイザー)がドイツでプレーしていた当時、へネス・バイスバイラ―監督の言葉を守り過ぎていたというエピソードがあるように、典型的な日本人選手は監督の指示に忠実です。

1993年にJリーグが開幕してからは多くの外国籍監督が来日し、日本でも選手に問いかけるスタイルのコーチングに触れる機会が増え、選手たちの主体性は徐々に高まってきましたが、根本的な解決にはなっていないと今でも感じています。例えば、2014年ブラジル・ワールドカップの日本代表はすごく良いチームでしたが、コートジボワールとの初戦の後半に逆転されてしまったとき、誰もチームを立て直すことができませんでした。ピッチ上の選手たちが話し合ったり、言い合ったりする様子が見られなかったのです。

また、2019年に森保一監督の日本代表チームがベネズエラと対戦した試合では、前半だけで4失点してしまいました(最終スコア1-4)。4点を入れられたこと自体も課題ですが、前半が終わってロッカールームに戻っていく選手たちの目が泳いでしまっているように見えましたし、このときもピッチ上で議論する姿は見受けられず、自分たちが何をすべきか分からないという状態でした。

一方で、ものすごく鮮明に覚えているのは、2019年U-17ブラジル・ワールドカップでの出来事です。開催国ブラジルは圧倒的な力を誇ったフランスと準決勝で対戦し、試合開始から立て続けに2点を奪われてしまいました。あと何点入ってしまうのかという展開の中、何とかしのいで0-2でハーフタイムに入ったのです。

そのときブラジルの選手たちは、レギュラーもサブも関係なくピッチに集まって、身振り手振りを交えて激論を交わしているわけですよ。17歳以下の選手たちだけで、監督やコーチは一人もいませんでした。その後、後半に3得点を挙げて奇跡の逆転勝利につなげただけでなく、続く決勝戦でも勝利を収めたのです。

ブラジルではプロクラブのユースチームに合格しても、翌週に自分より良い選手が来たら契約を切られてしまうわけですから、どうしたら自分が生き残れるのかを自分自身で考えなければいけません。監督やコーチの言うことを聞いていても生き残れないんですよ。同じことを日本でやったら大変なことになりますけどね。

指導の考え方に関しても、きっかけになった出来事はあるのでしょうか。

FCバルセロナのメソッド部門ディレクターであるジョアン・ビラから、「スペインにはサッカーの型があるが、日本にはないのか」という問い掛けをされたときにハッと思いました。我々は選手を型にはめてはいけないと考え、選手の自由をずっと大事にしてきたのに、どういうことなのかと。彼の言葉を借りると、「選手を型にはめるのではなく、16歳までにプレーの原則を教え込み、その後は自由にプレーさせる」そうです。

我々は選手たちに自由を与え、まずは自分で考えなさいと指導し、高校生年代の16歳くらいから戦術を教えていたので、スペインの考え方とは全く逆だったわけです。自由な状態だから自由な判断が生まれるのではなく、何か縛りがあるからこそ驚くような発想や判断が出てくるのではないかと思いました。

これは、つまり「守破離」ですよね。これが古くて封建的と言われがちなのは、「守」が強調されて意識が行き過ぎているからで、「破」と「離」をきちんと定義したら最高の指導法ではないかとあらためて考えさせられました。「守」ができていない選手に、自分で考えることはできないわけです。

大学駅伝で有名な青山学院大学の原晋監督も、「学生に主体的に取り組ませることが大事だと言いますが、基本が分かっていない学生に自分でやれと言っても無理です」とおっしゃっていました。要は、「守」が必要な選手には「守」を教えるべきですが、「破」で大丈夫な選手に「守」を指導する必要はありません。個別最適を考えるのが守破離ではないかと考えた上で、「岡田メソッド」というプレーの原則を作ることにしました。

岡田メソッドの実践を検討する中で、10年かかってでも新しいところで挑戦した方が良いと思い、先輩が保有していた四国リーグのFC今治でチャレンジすることになりました。そして会社の51%以上の株式を取得し、クラブのオーナーになったという経緯です。それまでは会社経営の経験がありませんでしたから、死に物狂いで取り組んできた中でプロサッカークラブにおける強化と事業の両方の大事さが分かってきた状態です。

今春にスタートしたFC今治高校での取り組みも、教育や人材育成という点で日本代表のエピソードにつながっているのですね。

多くの教育者も課題は認識しているけど、正解が見つからないから踏み出せない状況で、分からないならやってみるしかないと、素人の私が怖いもの知らずで踏み出してみたら多くの方が賛同してくださった格好です。子どもたちの人生を扱っているだけに、教育に失敗は許されないと考えがちですが、正解が分からないのだから先生や保護者も一緒に学んでいくしかないんですよ。なぜ教育では失敗してはいけないのか。結局のところ個々の成長は本人次第だと、私は言い切っています。

Jクラブのアカデミーでも同じようなことが言えると思います。

日本サッカー協会が主導して全員が同じサッカーを目指し、同じような選手を育成してきたのは、日本の高度成長期と同じ状況だと言えます。確かに必要なステップでしたが、この先は様々な個性が出てくるべきです。そして一番大切なのは、その個性を否定してはいけないということ。間違いではなく、ただ違うだけなのです。

日本では正解と不正解に分けたがる傾向がありますよね。みんなと同じでないと居心地が悪く感じてしまうのかもしれませんが、私は色々な考え方があって良いと思います。日本サッカー協会の副会長を務めているだけに表現が難しく、誤解されたくはないのですが、今後の日本サッカーは全員が協会の指針だけに従って動く必要はないと思っています。

4月上旬に公開予定の中編では、株式会社今治.夢スポーツの事業について伺いつつ、強化部ビジネスについて切り込んでいく――。

プロフィール

1956年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後は古河電気工業サッカー部に加入し、日本代表としても活躍。引退後は、日本代表監督として2度のワールドカップに出場した他、コンサドーレ札幌でJ2リーグ優勝、横浜F・マリノスでJ1リーグ連覇を果たすなど、指導者として数々の成績を残す。2012年から中国スーパーリーグの杭州緑城の監督を務めた後、2014年に株式会社今治.夢スポーツ代表取締役となり、2016年より現職。2023年には学校法人今治明徳学園の学園長に就任し、2024年4月よりFC今治高校をスタートさせた。

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