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  • 強化部ビジネス

2024.04.09

透明性が信頼を可能にする【中編】

岡田 武史

株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長

初めての会社経営に邁進する中で、どのようなビジネスを築いてきているのか。

株式会社今治.夢スポーツが取り組む様々な事業について伺いつつ、本流であるプロサッカークラブの強化部ビジネスについて切り込んでいく。

クラブ経営に関して事業と強化のお話しがありましたが、事業部は当然のことながら、強化部もビジネスとして成長させていく必要があると思われますか。

Jクラブの収入の多くを占めるパートナー収入は主に広告宣伝費で、カテゴリーによって価値が大きく変わってしまいます。それだけに頼ってしまうと安定経営は難しいため、他にも収入の柱を持つ必要があります。我々には「岡田メソッド」という武器がありますが、J3クラブのメソッドを日本国内で広めるのは、やはりハードルが高いでしょう。

一方で、私がトップチームの監督を務めた浙江職業足球俱樂部(中国/当時:杭州緑城)で実績が出ているため、現在は東南アジアを中心としたアジア地域に目を向けています。彼らは過去に欧州のクラブや会社と契約したものの、コーチの質の問題で契約を解除した経験をしていますから、チャンスがあると考えています。

また、環境教育を通じて公園(しまなみアースランド)の指定管理を今治市から受託したり、子ども向けに始めた野外プログラムが企業研修として大きなビジネスにつながりそうになってきたりと、会社としてサッカーとは直接関係のない分野で収入を得ることにも取り組んでいます。野外プログラムが企業から注目を集めている理由は、人が成長するにはプレッシャーや理不尽を乗り越える経験が必要だからで、会社で実施するのは難しいからです。

選手の移籍金やサッカークリニックの開催など、強化部で他のビジネスもお考えなのでしょうか。

移籍金は予算に計上しにくいのが現状ですが、若い外国籍選手などに関しては、将来的に化ける可能性のある選手を獲得するように意識しています。日本人選手を含め、現状は選手の年俸を決める際の明確な基準が確立できていないので、今後は様々なデータ等を活用して客観的な指標で選手を評価していきたいと考えています。

また、岡田メソッドを活用して他クラブの若手選手を育成するビジネスも検討しています。さらに、私が学園長を務める今治明徳学園には短期大学があるので、将来的には岡田メソッドを学ぶコースを作り、コーチの人材育成とデータベースの確立を実現したいと考えています。

移籍金収入を得るために、何か対応はされていますか。

現在のJリーグの規約では違約金の設定が低い上に、多くの選手は自分が移籍しやすい条件での契約を望みます。彼らの気持ちは分かりますが、世話になったクラブに貢献するために、移籍金を払ってでも欲しいと言われる存在になるべきだと思います。安い金額で選手を引き抜かれてしまうと、下のカテゴリーのクラブは経営的にも戦力的にも非常に厳しくなりますから。

例えば、下のカテゴリーから選手を獲得する場合は特別な違約金を設定するなど、Jリーグとしてローカルルールがあってもいいと思います。また、育成に関してはエリアを限定することで各地域の育成環境を整えることも必要でしょう。我々の地域でも、良い選手はジュニアユースから他地域のアカデミーに行ってしまうのが現状です。

先日、9年前に立ち上げた「今治モデル」の会議を行い、今治市の全カテゴリーの指導者が40人くらい集まりました。今治モデルでは毎年1人のプロ選手輩出を目標に、地域が一体となって育成ピラミッドを作ることに取り組んでいます。そこで見えた課題は、小学生から大人までの各カテゴリーの指導者は自分のカテゴリーしか見ておらず、上のカテゴリーでどういう選手が求められているかの意思疎通が行き渡っていないということでした。その対策として、カテゴリーを超えた交流を増やす取り組みを検討しています。

強化部は特殊な部署であり、クラブ内では大きな予算を担います。ゼネラルマネジャー(GM)や強化担当者に、どんなことを求めますか。

やはり、一番大事なポイントは透明性と信頼です。代理人とどういう交渉をし、なぜその選手と契約するのか、チームのために本当に必要な選手なのか等々を、明確に説明できないと信頼につながりません。今シーズンはGMに小山哲司を招聘しました。彼は私がコンサドーレ札幌の監督に就任した際に声を掛けた人材で、横浜F・マリノスや日本代表でも一緒に仕事をした間柄です。今年からFC今治高校が始まって、私が現場に関われる時間が十分に確保できなくなり、彼に現場を任せる体制にしました。とにかく信頼して任せられる人であることを最優先に人選し、服部(年宏)監督に関しても私が声を掛けました。

海外のクラブでは、オーナーに任命された社長とGMが対等な立場で業務を進めるケースが多いですが、FC今治ではどのような構造でしょうか。

役職としては社長が上です。社長と強化部が週1回程度の頻度でミーティングを行い、チームの状態や今後の対応、来シーズンのキャンプ地などを議論、共有した上で、社長が私と相談して物事を決定しています。ただ、私が最終判断する体制に課題を感じていて、将来的には強化と事業の両方が分かる人材が欲しいと考えています。

FC今治はフロント側にしっかりと投資されている印象があります。

浙江職業足球俱樂部に育成ダイレクターを派遣したときに管理職の重要性を感じました。当初、現場で指導しない人材の派遣に私は後ろ向きだったのですが、ダイレクターが各スタッフに指導のアドバイスをしたり、会社とのやり取りをサポートしたりしたことで、全体の質がガラッと変わりました。しっかりとした人を置いたら、こんなにも組織のパフォーマンスが大きく変わるのかと感じさせられました。現在、FC今治ではバックオフィス側に6名、フットボール側に3名の執行役員がいて、週1回の執行役員会を行っています。

 

※前編(3/27掲載)は、こちら へ!

※後編(4/23掲載)は、こちら へ!

4月下旬に公開予定の後編では、日本サッカー発展のために何が必要なのか。岡田氏だからこそ達した深い考え方に迫る――。

プロフィール

1956年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後は古河電気工業サッカー部に加入し、日本代表としても活躍。引退後は、日本代表監督として2度のワールドカップに出場した他、コンサドーレ札幌でJ2リーグ優勝、横浜F・マリノスでJ1リーグ連覇を果たすなど、指導者として数々の成績を残す。2012年から中国スーパーリーグの杭州緑城の監督を務めた後、2014年に株式会社今治.夢スポーツ代表取締役となり、2016年より現職。2023年には学校法人今治明徳学園の学園長に就任し、2024年4月よりFC今治高校をスタートさせた。

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